我ら夢あり明日あり野望あり5

 

 


名前

 輝美の貞操は辛うじて守られ、無事(?)葛西の寮に戻ってきた四人は(とどのつまり二人のサッフィズムを含む)

三十分後に601の留美の部屋に集まることを約束して一旦各々の部屋に戻った。

「ふいー、あのセンセ、毎週二日も泊まるんかぃ…。こりゃ本気と書いてマジでピンチや。…。これが既成事実と

書いて後の祭りと読むようにならんように気をつけな…」

 輝美はカバンを置いてベッドに横たわる。だがすぐ起き上がり、

「あかんあかん、こんなことしとったら時間の無駄や」

と言って参考書を机の脇の本棚から取り出した。

 三十分後に留美の部屋に集合だから、時間がかかりそうな大問は避け、日本史の一問一答集を取り出した。

 とりあえず適当なページをめくり。ページ端の解答を隠しながら上から順に解いていく。

「…。正解。…。正解。…。……あちゃー、これなんやったけかな…。…。あ、そうやったわー…。…あ、これは

分かるで。答えはゴータマ・シッダルータや」

 独り言満載で解いていく輝美が自信満々に今の問題の解答を出す。

「うん、正か…ん?」

 そう言って輝美は誤植ではないかと改めて解答を読み直す。

「ゴーダマ・シッタルータ…」

 輝美が考えていた名前とは微妙に違う。

「誤植…ちゃうやろなぁ…。二文字違とる訳やし…。…せや、用語集見てみよう。」

 そういって本棚から市販されている日本史の用語集を取り出す。

「ゴータマ、ゴータマ…。あ、いや、ゴーダマでも『あり』なんやけど…」

 始めは其の年代のあたりを無作為に探していたが見つからず、巻末の索引で探す。

「ゴータマ、ゴーダマ…。……、…ゴータマ・シータルータ…」

 白か黒か、右か左か、有か無かで悩んでいたのに、第三の選択肢が登場である。

「何やねん、どれが正解やねん!!わてはゴータマ・シッダルータで覚えとったんや。勝手に知らん名前増やすな!!」

 人これを逆ギレという。

 だがベッドの上で手足をバタバタさせて少し落ち着いたのか、

「せや、留美はんなら知っとるかも。あの人今の段階で東大入ってもおかしないくらい頭ええ人やからな」

 そう言って輝美は一問一答集と用語集をもって留美の部屋へと階段で上がっていく。

 そして601号室のチャイムを押した。

ピンポーン

「はーい、…はいよ、今開けますよー」

部屋の中から留美の声が聞こえてきた。

ガチャ。チャ…

「あ、輝美ちゃん早かったわね」

 ドアを開けてそう言った輝美は規格外の体に下着だけだった。

「あ、すんまへん、着替え中でしたか?」

「んーん、いいのよ。今輝美ちゃんのことを考えてオナニー中だったの」

「オナッ…」

 輝美は顔を赤くして下をうつむく。

「まー、輝美ちゃんったら、可愛い反応しちゃって。うそよ。ご想像の通り着替え中。さ、どうぞ入って」

「は、はひ、失礼しまふ…」

 そう言って部屋に入った輝美は着替え終わった輝美にさっきの質問をした。

「……という訳なんですけども、どれが正しいんでっしゃろ?」

「うーん、そのくらいの範囲であればどれも正解かな?」

「どれでもいいんでっか?」

「うん、それくらいなら、お釈迦様の国の言葉で正確に発音した時、どのようにも聞こえない?」

「はあ、まあそうですかな」

「うん、例えばね、英語でカメラって『camera』でしょ。あえて、より近い日本語で書こうとすればキャメラかな。それも

『キャ』にアクセントを置いてね。でもやっぱりそれはc,a,m,e,r,aの『camera』ではないわけよね。でもいちいち日本語で

書く時にアルファベットでcameraって書くの面倒くさいし変でしょ?だから『camera』は日本語で『カメラ』になる訳。

だからこの場合も、原典での発音を聞いた人が近いと思った日本語で書いているだけだから、そのくらいなら気にし

なくていいと思うわよ。若し心配だったら下にいる新庄先生に聞いてみれば?」

 留美の説明で大体納得できたのと、何より新庄に質問にいくのが躊躇われたため、

「あ、ええですわ、うん、分かりました。流石留美さんでんなー」

と慌てて答えた。

 留美は其の様子を汲み取って、そして笑った。

「ふふ、一応あの人も生徒の質問にはちゃんと答えてくれるわよ。じゃなきゃうちの看板講師なんかやってないから。

性格と性癖はともかく、講師としては超一流だから」

「そ、そうでっか?じゃあ今度質問にいってみますわ」

「うん、おすすめするわ。それにしても…ふふ…」

 そう言って留美は右手を口にあてて笑う。

「どうしたんでっか?」

「ふふ、いや…ね、去年も同じようなことを質問にきた子がいたのよ」

「へー、そうでっかー。で、どんな人ですのん、其の人?」

だが其の時、留美の答えの前にドアをノックする音が聞こえて、鍵がかかっていないドアが開いた。

「留美ネェー、来たよー」

 其処に現れたのは涼子だった。

「其の人…よ」

 そう言って留美は微笑んだ。

「はー、そうでっかー」

「??」

 涼子には其の会話の流れが分かりようも無かった。

 

 

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