我ら夢あり明日あり野望あり3
両雄
「この中で私の授業を受けるのって誰がいるのかな?」
新庄が漸く講師らしい事を聞いてきた。
「えーと、留美ねぇとあたしゃは去年からずっと。あと彼女たち二人とも日本史なんだって」
涼子が新入生の輝美と光を紹介する。
「は、はい…」
「ん……」
光はいつも通りだが輝美は先程の留美と新庄の会話に勢いが無くなっている。
「ふーん、二人とも可愛いわね。ね、どっから通うの?」
「あ、わては此処の寮からです…」
「家が東京だから…そこから…」
「そっか、関西の方から来てるのかな?」
矢張り新庄もそう思ったらしい。
「あ、いや、わては仙台の出身で…」
「へ、仙台?」
「はい、仙台です…」
其の後輝美はさっき涼子達にした説明と同じことを新庄に話した。
「ふーん、ま、でも関西でも仙台でも東京でもワシントンでもカイロでもロンドンでもリオデジャネイロでもスリジャヤワルダナプラコッテでも
可愛いけりゃオッケーよん。葛西の寮からならこれから帰るの?」
「は、はい」
「じゃ、一緒に帰りましょ、ね。お姉さんが色々教えてあげる」
「は、はあ、あの…、はい…」
「まー、若しかして照れちゃってるの?んー、可愛いー!!お部屋は何号室?」
二人の会話に留美が口を挟んできた。
「輝美ちゃん、ノーはきっちりと言えなきゃ駄目よ」
だが新庄は其の程度では全く意に介し無い。
「そうよー、あ、輝美ちゃんって言うのか。ね、輝美ちゃん、ノーはきっちりと言えたほうがいいわねー。で、お部屋は何号室?」
「あ、203です…」
輝美にはまだ新庄に抗う能力は持っていない。
「あそー、203ね。私は普段は火曜と金曜は一階のゲストルームにいるから。ゲストルームの二号室。其処が私専用の部屋だから。
火曜と金曜ならいつでも来てね。あ、でも他の子がいるときは…、それもいいか。うん、いつでもいいわ。来てね」
他の子がいるときでもということはその・・・。
「は、はひ、寄せて頂きます…」
「勿論これから来るけどね」
新庄が一方的に輝美の行動を決めると、其処へまた留美が口を挟む。
「いきなり輝美ちゃんの行動予定を決めないで下さい」
漸くの助け舟に輝美が少し安堵の溜息を漏らす。
「輝美ちゃんはこれから私の部屋に来るんですから」
「ぉっどぉぉー!!」
輝美は流石に其れは考えていなかったみたいだ。
「えー、そうなのー、留美ちゃんずるくなーい?」
新庄が非難の声を上げる。
「え、そ、そうでしたか?わてはまだなんとも、その、いや、行くとか行かないとか、というかまだ誘われた気もしないですし…」
「うふふ、冗談ですよ」
「ほ、ほぉーーー…」
だが安堵の息を漏らしたのは輝美だけではなかった。
「なーんだ、じゃあ、やっぱり私の部屋に来るのね」
「どうしてそういう思考になるかな…」
涼子がごちた。
「というか先生、私たちは浪人生なんですからね。そのへんは忘れないで下さいね」
留美が少し表情を真面目なものにして言う。
「うーん、まあそうなのは分かっているけどね。まあ、輝美ちゃん、分かんない事があったらいつでも聞きにきて頂戴。さっきも言った
けど火曜と金曜なら私はいるから」
「あ、はい、よろしゅーお願いします」
「そっちの子も自宅からだけど、日本史なんだよね」
「はい……」
「うん、私はこっち(高田馬場)の校舎には木曜日と土曜日しかこないけど、あと水曜日なら西船橋の校舎にもいるから。いつでも質
問に来てね」
「はい…宜しくお願いします」
「うん、なんだったら火曜と金曜の夜に葛西の寮の私の部屋に夜這いかけてきてもいいから」
「こほん…」
留美が新庄の行き過ぎをたしなめる。
「・・・はい・・・・・・。」
「ちょ、ちょっと光ちゃん、あまりまともに答えなくていいからね。」
新庄の言葉に光がまともに答えたのに慌てて涼子がたしなめる。
「…はい……」
それは果たして了解の意味だったのだろうか。
「じゃ帰りましょ」
「ってなんで先生が仕切るんですか」
涼子がつっこむ。
「此処のお勘定あたしが持つから」
「…今晩差し出すのは輝美ちゃんがいいでしょうかそれとも光ちゃんがいいでしょうか?」
「こらこら涼子、簡単に買収されるんじゃないの。…でもおごってもらえるなら其れもいいかな…」
真琴も結構まんざらでもないみたいだ。
「あーら、勿論両方よん。あ、でも勿論涼子ちゃんも真琴ちゃんもオッケーよ。留美ちゃんも来る?」
「私は男ですけど…」
真琴が苦笑いしながら答える。
「あらー、真琴ちゃんは特別よー。男でも女の子のように綺麗な子なら問題ないわ。と言っても真琴ちゃんはそこらの女の子より
ずっと綺麗だけどもね」
だが留美がその会話を断ち切る。
「はい、先生これ、私たちの伝票です。それじゃ外で待ってますから」
「はいはい、じゃ先行って待っててね。お楽しみは其の後という事で。うーん、それにしても輝美ちゃん、小ぶりながら形のいい
おっぱいねー、うーん可愛い」
そう言うと新庄は輝美の胸に手を伸ばした。
「きゃっ!!」
だが其の手を留美がペチッと叩き落す。
「はい、踊り子さんには手を触れないで下さいねー」
「ちぇーー、留美ちゃんのケチ。まーいいわ、本番は今日の夜よ」
「はい、皆出た出た。外でイロキチを待ってましょうねー」
そう言って留美は皆と一緒に外に出て行った。そして新庄は留美達の伝票と自分の伝票を持ってレジに行く。
「ご一緒でよろしいですか?」
「はい、一緒で」
店員の声に新庄は答える。
「此方がハウスワインとチーズケーキ。此方がアイスコーヒーと、ドリンクバーと、ケーキセットと、フライドポテトとオレンジジュース
と、カルビビビンバ丼と豚の生姜焼きとエビドリアとオニオンリングハンバーグとライスの大盛りで…」
(は、はあ?あの子達そんなに食べてたの?)
だが正確には『あの子達』では無くて、『あの子』一人で殆どを食べていたことは流石に新庄は知りようが無かった。