f−angel −銃は人を二度救う−
壁から少しだけ頭を出して前方の様子を見ようとした。
「くっ!!」
だが機関銃の掃射にすぐに首を引っ込める。
睦月は相手が近づく様子が無いため、銃のマガジンを交換する。
「・・・やはりfの言う通り、弾は大量に持ってきておいて正解だったな。」
睦月の相棒、睦月が背中を任せる相手、それがf-angelという愛称を持つ女性だった。
「そうね、甲本の本拠地だからそのわりには警護が少ないとは思ったのよ・・・。」
睦月たちの事前の調査ではここにいる人はさほど多くなかった。だが、それをいぶかしげったfが念のためにと、もっと人は
多い予測で潜入した。
「本当ならこれはあまり使いたくは無いんだがな・・・。」
睦月は手榴弾のようなものを取り出した。これは空気中にある粒子を撒き散らすもので、万が一にもこの粒子が充満した
状態で銃を撃ったりすると大爆発が起きる。
これはつまり、相手からの銃撃も出来なくなるが、それは当然自分も同じ条件で、つまりは格闘戦を強要するようなものである。
幸い人体には無害であった。
睦月がボタンを押して敵との間の廊下に投げる。それに対して少しまた銃撃があったがすぐに、
「やめろ、撃つな!!M-4ガスだ!!」
という声があがると銃声はピタッとやんだ。
「さて、こちらからいくか、あちらから来るか…」
相手もM-4ガスのことは分かっている。A.D.2065、このガスは室内戦ではポピュラーで対銃器戦用によく用いられていた。
ならば相手が格闘戦の準備が整う前に打って出るべきか・・・。
睦月は大きく息を吸い込むと死角になっていた通路へ駆け出した。fもそれに合わせて通路の曲がり角から飛び出す。
睦月の予想は外れ、相手は別に格闘の準備をしているとかではなく、ただ単に次にどうするか決めかねているだけであった。
睦月は慌てて飛び出してきた一人を相手の右ストレートを待ってからカウンターで相手のあごに右ストレートをお見舞いする。
次の相手はナイフを持っていた。睦月は半身の体勢をとり、距離を開ける。相手は威嚇のように何度かナイフを突き出す。
睦月はそれを距離をとることでかわす。
その時後ろから声がかかった。
「睦月しゃがんで!!」
それがfの声であると認識する前に睦月はその場にしゃがみ込む。
途端、背中に重い衝撃を感じた。それはfが睦月を踏み台に広い通路の上に飛び上がったためであった。
fは空中で上半身の力だけで右手に持ったナイフを睦月の前にいた相手の後ろの敵に投げつける。ナイフを持った男の
後ろで腕に取り付けたボウガンを睦月に向けて発射しようとしていたのだった。どうやらこの相手だけは睦月たちから死角の
壁でM-4ガスのための準備をしていたらしい。
「ひゅっ…」
fのナイフはボウガンの男の眉間に突き刺さり男のサングラスは真ん中から二つに割れ男より先に床に落ちる。
fはかえす体勢で左手のナイフを睦月の目の前の男に投げつける。男はかわすことが出来ず、胸の中央にナイフが突き刺さった。
「がぁっ…」
「はっ!!」
睦月は胸にナイフの突き刺さった男が倒れる前にその男を足の裏でのキックで更に後ろから前に出ようとしていた相手に
突き飛ばす。
「ぐあっ!!」
その中で一番体躯が大きい仲間が突き飛ばされ、その勢いで男は後ろに倒れこむ。
更に残る二人の敵は睦月とfがそれぞれ気絶させた。仲間に図らずものしかかられてしまった男にも眠ってもらい、二人は更に
奥へ進んだ。
二人はその後も何度か銃撃戦と格闘戦を繰り返したが、たいした被害も無く、甲本の部屋らしき前まで来ていた。
「f…」
「うん」
部屋のダイヤルキーの解除に取り掛かる。fの得意とすることだった。fが最後にボタンをポンと押すと、ドアが開いた。
部屋の中には人がいた。一人だけ。
「甲本だな。司法警察の睦月だ。これからお前の裁判、ならびに刑の執行を行う」
司法警察とは、容疑者の逮捕だけではなく、その場で裁判を開き、そして刑の執行まですることを許された特殊警察だった。
「罪状、殺人25件、殺人の教唆304件、殺人未遂15件、…あとはいいな、めんどくさい。残りは地獄で確認してくれ。もう最初の
段階で死刑確定だ。甲本。お前に死刑を宣告する」
睦月はそう言うと右手に持っていた銃を甲本に向けた。だが甲本は慌てるそぶりも無く、笑いながら睦月に言った。
「司法警察はいいですが今日は非番の日ではないのですかな?そんな時に刑の執行をしてしまっては問題事ではないのです
かな?」
「どうしてそれを…」
確かに睦月の今日の行動は全くの単独行動もいいところだった。おそらくいくら相手が凶悪犯だとはいえ睦月は懲戒免職どころ
ではないだろう。だが睦月は勿論それも踏まえてのことだった。目の前の男さえ殺せればいい。妹の仇さえ取れればいい。睦月の
願いはただそれだけだった。
だから甲本が睦月の勝手な行動であろうことは予想は出来たかもしれない。
だが何故今日俺が非番であることを知っている?
その答えは意外な方向からもたらされた。
ダァァァァン…
銃声が睦月の右後方からした。とほぼ同時に睦月の銃が弾き飛ばされていた。
「f…」
睦月はその方向を向いてその銃弾を発射した女性の名を呼んだ。
「こういうことだ。悪く思わないでくれ。だが安心したまえ。fはこれからも司法警察官として働かせる。警察の敵対組織のスパイに
気づかずに死んでいった間抜けという裏口はたたかれないですむ」
「理解できて、睦月?」
「・・・ああ、悪すぎる俺の頭でも十分すぎるほどにね。なるほど、用意周到なわけだ。ここを知っているんだからな…」
「f-angel。あなたにはfinal-angel(最後の天使)だと言ったわよね。でも本当はね、fallen-angel(堕ちたる天使)。
それがあたしの通り名よ」
「そうか…」
「悪く思わないでね」
「f」
「なあに」
「出来ることならお前の腰にさした銃で終わりにしてくれないかな」
「どうして?」
「お前と俺が初めてパートナーを組んだ時、お前が俺を救ってくれた銃だ」
睦月とfが初めてパートナーを組んで取り掛かった仕事で、睦月とfは4,5人の指名手配犯に逆に追い詰められた。睦月もfも
銃弾が尽き、相手がじりじりと銃を構えて近づいてきた時だった。
睦月はfにある提案をした。
睦月の持つM-4ガスをピンを押さないで相手に投げつけ、それをfが最後の銃で打ち抜いて局地的な爆発を起こすというものだった。
「無理よ…」
「大丈夫だ、お前なら出来る」
fはその言葉に銃を軽く握り締めた。
「いくぞ!!」
屋外にあった廃車の陰から立ち上がり、相手の集団めがけて投げつける。fもほぼ同時に立ち上がり、M-4ガスの缶をめがけて
ワンホールショットをした。
二人はそれ以来のパートナーであった。
「あなたにそんな感傷があったなんてね…。いいわ、お望み通りにしてあげる」
fはそう言うと手に持っていた銃を太股のホルスターに戻し、腰から予備の銃を引き抜き、睦月にねらいを定めた。
「f」
「なに」
「ありがとな」
「・・・」
銃声は一回だけだった。
「ご苦労。明日からまた司法警察官に戻ってもらうからな。今日はここでメンテナンスをしていけ」
甲本は目の前のコンピューターに何かを打ち込みながら言った。
「はい、分かりました」
「それにしてもまた一段と銃の腕前を上げたな」
「ありがとうございます、ドクター」
fは笑顔で答えた。
だがその時fの方を振り向いた甲本はやや驚きの声をあげた。
「ほう…」
「?」
fは何のことか分かっていない。
「f、顔に何か感じないか?」
「…そういえば顔の神経機器が少し違和感を感じています」
fは両目から大粒の涙を流していた。それは引き金を引いた時から笑顔を浮かべた時もずっとであった。
「…なるほど、分かった。後はプロフェッサーにメンテナンスをしてもらえ。報告は私からしておく」
「…わかりました」
fは部屋を出ていった。
そして部屋に一人残った甲本は誰かに連絡を入れる。
「プロフェッサーか?私だ。fだがな、どうやら人工知能は思った以上にうまく動いているようだ。70パーセントといった所か。
人の感情の芽生えがある。後は表現方法というところだな。…ああ、勿論全く人と同じ感情を持たれてしまっては困るからな。
そこはこれから上手く調節せねばならん。逆にこれ以上人間らしい感情を持たれていては私の方が危なかったからな…」
一年後、甲本の組織は壊滅することになる。それはt-angelという通り名の女性一人によるものだといわれていた。
t-angel
tear-angel(涙の天使)一人によるものだと。